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冬の海

 

海へ行った。
 
 
 
昔、友人と語り明かした懐かしい海ヘ―――



冷え切ったハンドルを握りアクセルを踏み込んでみる。
 
 
 
慣れ親しんだ海岸沿いを、
高校生の頃よく行った海へと向かった。
 
 
 
毎年、暑くなるとテントを担いで向かった海へ。



激しく打ち寄せる波の音。
 
 
 
頬を刺す風。
 
 
 
広がる山並み。


 
晴れ渡る日差しの中、
大きな岩の上で遠く水平線を眺める高校生くらいのカップルに、
ひどくセンチメンタルな気持ちにさせられた。
 
 

靴を脱ぎ、素足になり、波打ち際を歩いてみた。
 
 
 
打ち寄せる波が足元から体を冷やしてくれた。


 
昔のことを思い出していた。
 
 
 
あの頃の友人達は、
どこに消えてしまったのだろうと寂しく思った。

 
 
キャンプ場で出会った女の子のことを思い出していた。
 
 
 
夕方に現れ一緒に酒を飲み、
翌朝にはふっと消えてしまった女の子のことを。
 
 
 
一緒に夜の波を眺め続けたことを。
 
 
 
波に光る夜光虫がとても綺麗だったことを。


 
夕方、車の窓を開け放ち、
あの頃好きだったCDを掛けてみた。
 
 
 
いつまでも色褪せないそのメロディは、
もう遥か昔の事を、ついこの間の事のように思い出させた。


 
冬の海は切ない。
 
 
 
儚さだけが心に残る。


 
街に戻った俺は、
一人バーの扉を開けた。
 
 
 
そして、若いバーテンダーにピーチ・ベリーを作ってもらった。
 
 
 
誰もいないカウンターで、
二人で冬と海の話をした。


 
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