懐かしい香り

 

 

横断歩道で信号待ちをしていると、
懐かしい匂いがした。





軽い花の芳香が漂う香水の香り。





俺の前に立っているOL風の女性から、
それは届いていた。





いつかどこかで―――





それもひどく身近で嗅いだ匂いだった。





思い出せない。





が、それは確かに、
いつかの自分が慣れ親しんだ匂いだった。





控えめな花の香りが、
香水らしくない優しさを保っていて―――





どうしても思い出せなかった。





時間に余裕があるのを確認し、
デパートの香水コーナーに立ち寄った。





『花の香りで昔からあった物なんですが…』





定員におぼつかない説明をする。





『大体、こちらのような物になりますね』





店員が出して来た香水は数種類あったが、
ボトルを見た途端に思い出した。





記憶の中のものとは違ったが、
出された香水の中に同じブランド名のものがあった。





断片的な遠い記憶が蘇ってくる。





花の散った透明のボトル。





間違い無かった。

 






【ローラ・アシュレイNO.1】





 

昔、付き合っていた彼女の誕生日にプレゼントした香水だった。




思い出さなければ良かった――――